来たよ好事家

「中国語講座」の体験講座は、参加希望者が揃い無事開催されることとなった。

教室は通勤の乗換駅の駅前にある。仕事が順調に片付き、授業の開始時刻よりずいぶん早く着いたので駅の周りをぶらつくことにした。乗換以外の目的で降りたことがない駅だが、ひょっとしたら新しい発見があるかも――

何もない。

駅周辺を検索したら19時まで開いている喫茶店を発見したのだが、行ってみるとその店には「コロナ感染対策のため」17時で閉店する旨の貼り紙があった。人の気配のない駅前を40分ほど歩きまわったが、結局ドラッグストア1軒とジュースの自販機2台を見つけただけだった。石川県民は公共交通機関に乗ったら負けだと思っているので、駅前なんか栄えるわけがないのだ。

事前に案内をもらって確認していたから、教室の場所は間違いないはずなのだが外から様子を伺うと室内は真っ暗で、時折通る車のライトがドアに貼られた生徒募集のポスターを照らし出していく。色があせて隅のめくれたポスターはやけに不気味に見えて、一抹の不安を抱えながらしばし教室の前で立ち尽くしていると、2人の女性が現れた。先生とカルチャースクールの事務の方だった。先生にとっても初めての授業であったようで、事務の方から履物はここで、照明のスイッチはここ…等、室内の設備について説明を受けている。手持ち無沙汰なので私も机や椅子を設置した。そうこうしているうちにもうひとりの受講生の方が現れた。参加者は3人必要だと聞いていたが、2人でも開催していただけたようだ。よかった。

授業が始まると、先生はアルファベットと発音の表をホワイトボードに貼り出した。母音は4つあること、多彩な子音があること。アルファベットではあるけれど読み方は英語とは違うこと。使わないアルファベットがあること。日本語で使用する漢字は中国にもあるが、読み方は全く違うこと。開始早々怒涛の情報量で理解が追いつかない。先生に倣って母音から発音練習となったがピンインと声調の細やかさはもはや芸術だ。私の名前は中国語で読むと「シァオユアンジェンジー(※素性がばれないようカタカナ表記にします)」になると知って語感のかっこよさに動悸がしたが、かっこよすぎて発音できない。中国語を始めたきっかけは聞かれずに済んだ。

ひととおり発音が終わると、先生は新しく紙を取り出してホワイトボードに貼り付けた。

『jīnshìdejiēdào』

魔法使いの呪文だろうか。ぽかんとして紙を見上げる私に、先生は微笑んだ。

「これを音節切りしてください」

お…おんせつぎり?!このなにがなんだかわからんものを斬れと?!!??

当時の動揺を絵にしてみた

授業の流れから推察するに、このひとかたまりに見える言葉はいくつかの漢字から構成されており、どこからどこまでがひとつの漢字(音節)なのかはピンインの切れ目でわかるということなのだろう。ときに「魔道祖師」はモー・ダオ・ズー・シという発音だったから、おそらく一つの音節は子音から始まって母音で終わる。私はなんとなくあたりをつけて線を引いた。
jīn|zé|shì|de|jiē|dào

私「こうですかわかりません」
先生「全部正解です!」
私「ほんとですか?!!???!!」
斬れた……!!
なお「jīnshìdejiēdào」は「金沢市的街道」を表すピンインだった。もちろん何の魔力もない。中国語だとそのへんの道路までかっこよくなるんですね。

音節切りLv.1のアビリティを手に入れて中国語の歌を聞くと、今まで歌詞を見ていてもどこの部分を歌っているのかわからなかったのが漢字を追えるようになった。ちょっと嬉しい。

盛り沢山の授業を終えて、全員で机や椅子などを片付け「また次回ですね」と言って解散となった。次回までに発音の復習と、食料をどこで調達するか考えておかねば。

何日か経って、カルチャースクールから連絡があった。私はこれからも受講したい旨を伝えたが、現時点では受講希望者が集まっておらず、次回以降の開催は決定していないという。講座がなければないでNHKラジオ等で粛々と学習するつもりでいるが…ん?今俺を見たな?これでお前とも縁が出来た!xī jīn zé で中国語を始めないか!!

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