コピー本を作ろう

資料作成という作業が好きだ。「中綴じで」などと頼まれるとワクワク感さらに倍である。ホッチキスの位置がすべて揃った資料、積まれた冊子の角がびしっと揃った様を見て、私は脳内にこしらえた達成感のプールにひたり、しばし悦に入る。

職場の人に「前職は印刷業かなにかだったんですか」と訊かれ、「ただの本屋の店員でして…」とモゴモゴしてしまった。書店員は冊子を仕入れるが作らない。積み方を鍛えられただけである。「五積み(※5冊づつ向きを変えて積み上げる方法)で角を揃えろ」は染み付いてしまって無意識にやってしまうものであるが…

冊子作りに慣れているのはそりゃあんた、同人活動でさんざんコピー誌を作っていたからにほかならない。イベント前になると近所の文具店に行ってはせっせとコピー本を作っていた。印刷所に原稿を提出して製本することには憧れたが、1回のイベントでせいぜい10冊売れればいい方という弱小サークルだったので、印刷所などに製本依頼してしまっては在庫と経費がかさむ一方なのであった。少部数のコピー本は自分の都合でいくらでもスケジュール調整できるのも良い。おかげさまで会社でもコピー作業はお手の物である。

中国語講座にて、老师から「生徒も増えましたし、これからはテキストをもとに学習をしようと思います」と提案を受け、今後使用予定のテキストを見せていただいた。中国語教師用に作られた専門書だった。受講者が全くの初心者から多少心得のある者まで想定されており、ぜひこれで教えていただきたいという内容のテキストだった。しかし一般的に流通していないようで、定価は2,530円である。7〜800円ぐらいなら、と思っていた学生一同はうーんと唸った。ちょっと很贵(hěnguì)だ。老师も「授業の都度、コピーしたものをお配りするしかなさそうですが、家の近くにコピーサービスのお店が無くて…」とお困りの様子である。私は即座に手を挙げた。「コピー本ならお任せください!」

土曜日、私は老师からお借りした貴重なテキストを持ってコンビニに赴いた。コピー本を作るならキンコーズが一番てっとり早そうだが、石川県のキンコーズは金沢市内中心部に店舗があり、この日は大雨だったので紙の原稿を濡らさずバスに乗って金沢市中心部まで行く自信がなかった。

B5の本なのでB4用紙に2ページ分コピーをした。表紙や巻末資料をふくめ80ページの内容が40枚になった。今のコンビニのコピー機は少しページが浮いていてもしっかりスキャンしてくれるので、押さえ方が軽くても印刷時に黒いムラが発生しない。すごい。

家に持って帰って半分に折った。両面印刷などなかった頃の小学校の文集スタイルである。これでいいんじゃないかとも思ったが、かさばる。講座のたびに持ち歩く事を考えたら両面コピーで量を半分にしたほうが良いだろう。半分に折ったところで切り離した。80枚のB5原稿ができた。

翌日、今度こそキンコーズに持ち込もうと意気込んだが石川県のキンコーズは日曜祝日がお休みなのだった。が、ネットで検索したところ、野々市市内にコピーサービスを行っている文具店があったのでさっそく伺った。

店内に入るとコピー機は見当たらず、カウンターに料金表が貼ってあった。セルフコピーではなく、店員さんに印刷してもらう形式であるようだ。よかったー今日持ってきたのが同人原稿じゃなくて。私は堂々と店員さんに原稿を提出し、B5で両面コピーをお願いしたい旨を伝えた。

すると店員さんは(えっ)という顔になり、私の原稿の束を見て、「少々お待ちください」と言い残してバックヤードに消えていった。 予想外の反応である。奥から「それでもいいなら…」という声が聞こえてくる。今日は同人原稿でなければエロもない、まったく真面目な原稿なのにどうしたものか。しばらくして店員さんが「お待たせいたしました」と出てきた。ファイルに収められた料金表をぱらぱらとめくって指をさす。

「B5の両面コピーとなりますと、1枚30円かかります。しかも片面のみで30円ですので、裏面もとなると1枚60円かかりますがいかがでしょうか」

「そんなに?!!?!」

80ページ×30円=2,400円

Amazonで当該テキストを購入するのとほぼ変わらない超高級コピー本である。コピーはカセットに紙を装填し、印刷方法を選び、スタートボタンを押す(reload,aim,shoot)だけではないのか。この店はいったいどんな超絶技工を使ってコピーしているというのだ。職人たちが1枚1枚版下を手彫りでもしているのか。それともマットPP加工に箔押しでもしてくれるのか。奥に鎮座しているらしい超高級コピー機がどんなものなのか非常に気になったが、「じゃあいいです」と原稿を引っ込めた。

まさかコピー本制作が2日で終わらないとは思わなかった。来週満を持してキンコーズに行くか、別の手段でやっつけるか。ちなみに私がコピー本を作りに通っていた近所の文具店のセルフコピーコーナーを久しぶりに覗いたら「両面コピーはできません」と貼り紙がしてあった。その節はお世話になりました。

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