(今回三谷幸喜脚本・監督作品『スオミの話をしよう』の感想を書いております。この作品は事前情報をなにも頭にいれずに観たほうが断然面白いので、これから観る予定のある方は以下の文章を読まないことをお勧めいたします)
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フィンランドに憧れ続けて30年になる。超えたいとも思わないので憧れるのも止められない。高校生の頃、なぜか興味のわくものがフィンランド由来のものばかりだった。深夜にF1中継を観ていて心惹かれたレーサーはイルッキ・ヤルビレートで(ミカ・ハッキネンは容姿・実力ともにかっこよすぎて何か気が引けた)、図書館で世界の神話・伝説を読んでいたら「カレヴァラ」に出会い、シベリウスの「トゥオネラの白鳥」を聞いてポホヨラの国を想像し恐ろしくも美しい世界に魅力を感じ、FF5のアレンジアルバムを聴いてAngelin Tytötの歌声に衝撃を受け、さらにFMを聴いていたらラップランドの民族音楽「ヨイク(yoik)」の歌声が流れてきて強い感銘を受けた。周りで誰もやっていないことを勉強したいという気持ちもあって大学ではフィンランド語を学んだ。フィンランド語は面白かったが途方もなく難しかった。どうにかこうにかラップランドに伝わる民話をテーマに卒論を仕上げたが、よく卒業できたものだと思う。
さて三谷幸喜先生脚本・監督の映画のタイトルが「スオミの話をしよう」であると知り、私の心は非常に浮き立った。Suomiとはフィンランド語でフィンランドを指すからである。フィンランドを学ぼうとするものが最初に覚える単語だ。フィンランド讃歌を脳内再生させながら私は映画館に向かった。
いそいそと着席し「スオミの話をしよう」の予告が流れたとき私は「ん?!」となった。劇中の「スオミ」のアクセントが「スオミ」になっている。フィンランド語はすべて頭にアクセントがくるので私は「スオミ」以外の発音を知らない。ひょっとして登場人物が「スオミ」であるだけの偶然で、フィンランド関係なかったんじゃないのか―――
と、映画が始まって3秒で颯爽と現れた男を目にして私は「スオミ」の発音など全くどうでも良くなった。「虎に翼」の轟さんじゃないかっ!戸塚純貴氏の登場にドキドキしているとさらに瀬戸康史&西島秀俊が追い打ちをかけてくる。なにこのイケメンパラダイス。
そして徹頭徹尾コメディである。さすが三谷幸喜脚本、実力派俳優たちが全力で笑わせにかかってくる。間合いも完璧だ。3億円の身代金を要求されて「足りない分は俺が出す」と言ったものの、出せる金額を聞かれて「7,500円」と答える遠藤憲一氏には吹き出してしまった。このセリフが似合うんだ、マリメッコのエプロンも似合ってた。
なにしろ魅力的だったのが「スオミ」を演じる長澤まさみさんだ。この映画は長澤まさみ劇場と呼ぶにふさわしい。「スオミ」は無意識に相手に自分を合わせてしまうという性格ゆえ、多重人格ではないのだがある夫の前では料理が下手なように見せ、ある夫の前では料理が得意であるかのように見せ、ある夫の前では上海出身でまったく日本語を解さないかのように振る舞う。その演じ分けが凄いのだ。とりわけ彼女の中国語はお見事だった。最近中国語をさぼってしまっていたことを後悔した。掃除機は中国語で「吸尘器(xi chen qi)」ということを覚えた。
あと、ちゃんとフィンランド関係あった。スオミという名前でフィンランド関係なかったら映画館でなんでやと叫ぶところだったが安心した。
さっそくApple musicで「スオミの話をしよう」のサウンドトラックを聴いている。みんな私を愛してくれた/だから私も愛してあげた/でも私にはもっと好きなものがあるの/それがヘルシンキ、ヘルシンキ――いいなあヘルシンキ。カウッパトリの青空市場でソーセージをつまみにビールが飲みたい。アカテーミネンキルヤカウッパはまだ営業していますでしょうか。フィンランド、行きたいなあ。竹やぶに3億円ぐらい落ちていないだろうか。
学生の頃使っていたフィンランド語の辞書を添えて
ちなみに私の好きなフィンランド語は「kalsarikännit(英訳は『Pantsdrunk』、外出予定がなく自宅で一人下着姿で酒を飲むことを指す)」です。

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